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CHAPTER3 受動態・There is構文・「強調構文」  SECTION3-1

 これまでは、主語S以外のものが節の先頭に置かれると、その節に託した書き手のメッセージが大きく変わることを説明しました。

 CHAPTER3では、受動態・There is構文・「強調構文」の文法は中学・高校で学んできたのですがその存在理由、情報構造における役割ははっきり学んできませんでした。たとえば、能動態を受動態に書き換えるパターンは教わりましたがそれは同一性を前提としています。だが情報構造は大きく違うのです。

 このCHAPTERでは

  1. 主題と情報構造からみた受動態の役割
  2. 主題と情報構造からみたThere is 構文の役割
  3. 主題と情報構造からみた「強調構文」の役割

を取り上げます。

 

主題と情報構造からみた受動態の役割

主題選択から見た意義

 受動態の意義はS V OのOを主語の位置において、動詞をV-edの形に変えたものですが、もともとの目的語が節の先頭に来るということは構造上の語順OSVと主題は同じです。しかし、受動態の場合、構造はO S Vでなく、S V なのです。主題としての主語Sはノーマル、書かれていること以上の意味はない、そして受動態も同じで無色なわけです。O S Vの主題は強いコントラストや前景化の意味が加わるのに対し、受動態は本来の目的語を節の先頭に配置しながらも、そこにコントラストや前景化が生じないようにする技法なのです

 そしてもともとの主語は必要な場合に限り末尾にby....という形で示されます。ついていない場合の方が多いです。

 

情報構造からみた意義

末尾にby以下があればその部分が極めて情報価値が高いのです。byを置く受動態が自然であるかどうかは影響力の有無にかかります。

  ex) I was approached by the stranger.

             これは自然な使い方でしょう。「見知らぬものが近づいてきた」というのは「私」を身構えさせますよね。そしてこのthe  strangerは何者かが以後展開されていくでしょう。

 

 ex) I was approached by the train.

        ここに何らなぞはありません。主語であるI に与える影響力はなし。受動態を用いるのは不自然です。

 

では高度な例文を取り上げます。

 ① A number of theoretical questions have been raised by the effort to think the relationship between feminism, psychoanalysis, and race studies. ②For the most part, psychoanalysis has been used by feminist theorists to  theorize sextual difference as a distinct and fundamental set of linguistic and cultual relations. ③The philosopher Luce Irigaray has claimed that the question of sextual difference is the question for our time. ④This privileging of sextual difference implies not only that sextual difference should be understood as more fundamental than other forms of difference, but that other forms of difference might be derived from sextual difference.   

(意訳)①数多くの理論的問題が上がってくるのは、フェミニズム、心理学そして人種についての研究との関係を思考しようとすることによってである。②たいてい、心理学を用いるいるのはフェミニスト理論家で性別を本質的で根本的属性として理論づけている。③哲学者リュス・イリガライがいうには、性別問題がわれわれの問題だということだ。④この性別の特権が意味するのはたんに性別が他の差異形態以上に根幹であるということだけでなく、他の差異形態が性別から派生しているかもしれないということだ。

 

 情報構造を追ってみましょう。①は受動態でSVが価値の低い情報(前景化を生じないようにするもの)、by 以下が高い価値を持つ。②もbyを持つ受動態で文頭に副詞句が入っているがSVは①の末尾にあるpsychoanalysisを受けているから旧情報、そして情報価値の高いのはby以下の新情報にあります。③は報告構造と呼ばれるものでSは報告者で動詞Vにはここでは詳細しませんが著者の評価が含まれます。そして目的語に相当する名詞節が新情報となります。主題の哲学者リュス・イリガライは②の術題feminist theoristsの具体的人物例にすぎないわけですから。④もThisがあることから③の名詞節の内容を受けているのがわかります。いろんな区別の中で性別が最も重要だということを受けています。not only ....but(also)....の呼応関係はbut以下に力点が置かれることはお判りでしょう。④のふたつめの名詞節内の受動態にはbyがありません。もともとはSVOの語順における目的語であったother forms of differenceを文頭に持ってくることで主題でありながらも前景化とコントラスト化を阻止するのです。

 

 ①~④のセンテンスの流れが

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のように進んでいるのがわかりますね。

 

 

 

フェミニズム問題は門外漢ですので取り上げた例文の文献を上げておきます。

 

Bodies That Matter: On the Discursive Limits of Sex (Routledge Classics)

Bodies That Matter: On the Discursive Limits of Sex (Routledge Classics)