CHAPTER1主題・主語の情報構造 SECTION1-1
主題としての主語S
まず、節における語順とそのメッセージ・特長を押さえておこう。
この図は英論文を読み解くうえでかなり重要なのです。自然に身につくまで事あるごとに戻って確認するのもよいでしょう。
まず、主題というのはすべて節の先頭におかれる。ただし主語Sがいつもそこに置かれるとは限りません。今日は最もノーマルなパターンとして主語Sのみが主題の場合を考えましょう。因みに主題は節の前半、術題は節の後半にくるものとします。
①Philosophers since Plato have returned over and again to architectual figures and metaphors as a way of grounding and stabilizing their otherwise unstable philosophical systems. ②Descartes developed the metaphor of the city planner as a model for producing a solid edifice of thought, while Hegel believed that knowledge must be systematic, architectonic. ③Even Kierkegaard, despite his parable ridiculing Hegel for living in a hut overshadowed by a magnificient edifice of Hegels own construction, availed himself of the metaphor of architecture.
(意訳)①プラトン以来の哲学者は繰り返し何度も構築の概念と隠喩に立ち返っては自分たちの不安定な哲学体系を根拠づけ安定化させようとしてきた。②デカルトは都市計画の隠喩を思想の強固な建造物を構築するためのモデルとして展開したし、ヘーゲルは知は体系的、建築的でなければならないと信じていた。③ヘーゲルは自分自身の構築物である壮大な建物によって影に入ってしまった小屋の中に生きていると寓話を用いて嘲笑したキルケゴールでさえ、建築の隠喩を用いているのだ。
③だけ主語に法副詞(これについてはのちに詳しく触れます)Evenがついているのですが「~でさえ」という意味ゆえに①②に対して新たな展開があるわけではないのです。いってみれば①~③はすべて言い換えといえるのです。 接続語句もなく、指示語も語句の反復もなく主題が主語Sであるというパターンは言いかえの目印なのです(節は主題=文頭 ⇒術題=文末という流れを持つ)。前の説の内容から一歩も前進しないのです。つまり、
という構成です。
これにたいして、次の例文はどうでしょう?
①Communication is usually understood as a model in which an ideal speaker and an ideal listener change messages by means of a common code. ②This model is isomorphic to the model of classical and neoclassical economics. ③The equilibrium theory of classical economics, especially that of Vilfredo Pareto, could not have been very far from Saussure's thoughts when he produced his synchronic system.
(意訳)
①コミュニケーションはふつう理想の話し手と理想の聞き手共通のコードを使って意見交換をするモデルと考えられている。②このモデルは古典派、新古典派経済学の均衡理論と同型だ。③古典派経済学の均衡理論、特にヴィルフレッド=パレートのそれは共時体系を創ったときのソシュールの思考とはそれほどかけ離れてはいなかったであろう。
①~③ すべてが上の例文と同じで主語Sが主題であるが、②のThis modelは①の主節にある副詞句内のa modelを受けている。③のThe equilibirium theory of classical economicsは②の文末にあるthe classical and neoclassical economicsを受けているのです。ついでですが英文は文と文ではなく節と節の関係でとらえないといけないといいました。すると①は主節と形容詞節(関係代名詞節)との関係で形容詞節の頭にくる副詞句in which のwhichは主節の後ろのa model を受け ③は主節と副詞節の関係で副詞節の頭heは主節の後ろにあるSaussureを受けているのです。
パラグラフの構成は
という具合ですね。
まとめ
節の先頭=主題が主語Sである場合には、書き手のメッセージは、「この節のテーマは~です」というメッセージに限られる。そして主語Sにおける指示語・語彙の反復の有無は、節と節が言い換えの関係にあるのか、あるいは話が一歩前進するのかを見分ける大切な目印となる。
スーパー英文法 PartⅠ
PartⅠで取り上げるのは主題選択と情報構造についてです。読むことにおいて念頭に置くべきは文(sentence)ではなく節(clause)である。その理由を知るためには次の2文を検証してほしい。
① Buddhism, which is said to have entered Japan in the sixth century, was established as a atate religion in the seventh and eighth centuries because Yamato court, which at the time have achieved unification through the conquest of disparate clans, made use of it as a world religion that would transcend the gods of the multiple clans. ② For this reason, it was at the time no more than an esoteric religion centered on the pacification and protection of the realm by way of proyer and ritual[chingo kokka].
① 仏教は6世紀に日本に入ってきたといわれているのだが7世紀と8世紀に国家宗教として制度化された。そのわけはヤマト朝廷は当時分散した氏族を征服し、それを多様な氏族の神を超越する世界宗教として利用することにあった。② だから当時それは鎮護国家の中心に置かれた秘奥の宗教にすぎなかったのだ。
①と②はどのような関係にあるのでしょうか。センテンスを単位にしてしまうと①の全体と②の全体を関係づけようとしてしまいます。ところが①の主節は導入であり前提なのです。「仏教が6世紀に入り7,8世紀に国教となった」はたいてい歴史の教科書に載っていますよね。
ところがbecause以下の副詞節は筆者の見解であり、多くの読者に認知されていない情報なのです。②の代名詞thisは①の副詞節の内容を指しセンテンス全体は副詞節以下をさらに展開するのです。「神々を超越する世界宗教がたんなる秘奥の宗教」と言い切るのに「仏教が6世紀に入り7,8世紀に国教となった」はあまり関係がないですよね。
このPartⅠのキーコンセプトは節の主題のノーマル度です。書かれた英語では、主語が節の先頭にあるときが最もノーマルです。主語以外のもの(副詞要素M2や目的語Oや補語Cなど)が置かれる主語が主題となっている場合に比べノーマル度にかけるのです。
ただし、副詞要素M2は比較的ノーマルとみてよいでしょう。それが節の先頭に出てくることは多いからです。そして最もノーマルさに欠けるのは目的語Oなのです。以下、富士哲也氏の『英文読解のグラマティカ』を構成する
- CHAPTER1 主題・主語と情報構造
- CHAPTER2 主語以外のものが主題になる場合
- CHAPTER3 受動態・There is構文・「強調構文」
をフレームにPartⅠを解説していこうと思います。