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CHAPTER3 受動態・There is構文・「強調構文」  SECTION3-3

 強調構文を取り上げましょう。この構文はいつでも自由に使えるというものではありません。何らかの必然によって表現されるものなのです。3つのパターンに分類して説明します。

 

  1.  It is の後に名詞要素があるパターン
  2.  It is の後ろに副詞要素があるパターン
  3.  What~ is ...「~なのは・・である」というパターン(文法の専門書ではこれも強調構文の一種。強調構文が分裂文と呼ばれるのに対しこれは疑似分裂文と呼ばれる 。)  

 

1.It is の後ろに名詞要素があるパターン

 a) 強調構文の構造

 Itが「形式主語」の場合つまり後ろのthat節を受ける場合これは「強調構文」といえない。後ろのthat節は名詞節でセンテンスとしては完結しています。それに対し「強調構文」はthat節以下は関係節です。構造としては本来一つの節であったものを二つの節に分けて表現されることになるのです。

 

  You are to blame for the failure. (その失敗の責任を問われて当然なのは君だ)

 

 という節をもとにふたつの節が作れます。

  

  It is you that are to blame for failure.

       It is for failure that you are to blame.

 

 b)この構造の意義

 他の節パターンを選ぶと主題選択と情報構造に問題が生じるためです。主題には「他ならぬ」という意味が加わります。It isのbe動詞には主題と題術のあいだに1対1の呼応関係を設定するからです。

 

 情報構造としてはIt isの後ろに新情報NewAがある時はthat以下は旧情報Given AとなりNew Aを今後の発展の土台とみましょう。It is の後ろに旧情報Given Aがある場合that以下はNewBとなりすでに提示された事柄を一つにまとめて要約したものと考えられます。もういちど基本的な情報構造をおさらいしておきます。

 

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そのうえで読解あるいは英作文で「強調構文」の特性・意義を活かしましょう。

 

cf)  参考までに主題がnot A but Bは「Aではなく」の部分が「他ならぬ」の他を明示しているわけです。その婉曲表現に

 not so much A as B/ less A than B/ rather B than A

も「強調構文」と非常に相性がいいのです。

 

2.It is の後ろに副詞要素があるパターン

 副詞要素M2がIt is によって主題化されるのはコントラストが生じるのを防ぎ「他ならぬ」という意味を加えたいという動機があります。 だから、条件、譲歩がここにくることはありえません。それは「他ならぬ」にマッチしないからです。

 

 ここでも名詞要素の場合と同様に、It is <新情報New>that<旧情報Given>のパターンとIt is <旧情報Given>that<新情報New>のパターンはあります。それについては後に取り上げる例文で検証してみます。

 

3.What~ is ...「~なのは・・である」というパターン

これは、上の目次のところで括弧をつけて疑似分裂文といいました。

 

 What ...is 名詞要素.

と逆パターン

 名詞要素 is what...

がありますが両者ともwhat節という名詞要素と他の名詞要素とを1対1に対応させる点で「強調構文」と同様「他ならぬ」の意味が生じます。違いはというと節のどの部分でも主題化して節の先頭に置くことができるということにあります。

 

ex) James offered Mary a beer.

 

          What James offered Mary was a beer.

 

         The one who offered Mary a beer was James.(Whoではめいしせつをみちびくこ             とはできないのでthe one whoにしました)

 

   What James did was offer Marry a beer. (何をしたかを主題とすれば                     offer a beer というVOOをwasの後に持っていくこともできます)

          

          What happen was that James offered Mary a beer.

   (「何があったか」も主題になりえます)

 

 さらに、押さえておくべきは、what節が前提でbe動詞より後ろが主張になるということです。情報構造は旧情報Given⇒新情報Newとなります。

 

 

では、この疑似分裂文を含めた「強調構文」が豊富にある例文をあげてみます。

 

①What is overlooked in the return to Nietzsche initiated by poststructualism is Nietzsche's internalized romanticist disposition; it is from this reconsideration that we are today reinterpreting him.② In opposition to reason, romantisists regard as essential the manifold and contingency- immanent in concepts like body, effect, feeling, and the like. ③But it is only reason itself  that can deconstruct reason.④ It is my contention that without a formal procedure or method, all cretique directed at the will to architecture, no matter how obsessively repeated, will invariably devolve into romanticism.

                                [...]

⑤Thus it is in mathematics that the Platonic will to architecture is most often encountered, and , accordingly, it is through mathematics that the critique of Plato must be focused.  

 

(意訳)①ポスト構造主義者によって始められたニーチェへの回帰において見落とされているのはニーチェが内面化したロマン主義的配置だ。いうなればこの再考から今日わたしたちは彼を再解釈している。②理に対し、ロマン主義者は身体、印象、感覚などの概念に内在する多様性と偶然性を本質とみなす。③しかし、理性そのものしか理性を脱構築することはできない。④公式な手続きあるいは方法がなければ建築への意志へ向けられる批判は、どれほど脅迫的に繰り返されようともすべて不可避的にロマン主義に吸収されてしまうであろうというのが私の持論だ。(中略) ⑤こうして数学においてこそプラトンの建築への意志はもっともよく見出され、したがって数学を通してこそプラトン批判に焦点を当てねばならない。

 

 

 

 これまでに取り上げた英文の中でも相当読み応えあると思いませんか。

 

まず①は疑似分裂文。What節は前提、旧情報Givenですが「ポスト構造主義者が始めたニーチェ回帰において見落とされたもの」が多くの人に知られている価値の低い情報とは言えませんね。これはGivenAで文章ですでにのべられている事柄なのです。この引用文より前のパラグラフで述べられたセンテンスには

 

 Nietzsche established the prototypical critique of Platonism, but Nietzsche's critique overlooked something.

 

 があります。それでis以降が新情報Aで新たな展開となりそれは「ニーチェロマン主義の立場を内面化した」ということになる。

 セミコロンはいいかえをあらわします。そしてここでは副詞要素M2が強調されます。「(他ならぬ)この再考から」というIt is の後に来る部分が強調される旧情報となって、新情報へとつなげる。ただしこの新情報はNewBで述べるのは二度目であるが情報価値は高い(もう一度上のリストで再確認しておいてください)。

 

②は副詞要素M2が主題となります。この情報構造は以前にも述べておきました。

 

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 ③ではまたしても強調構文です。主題はIt is 以降の only reason itself 「理性そのもののみ」でこのonlyが「他ならぬ」に非常にフィットする。情報構造は

 旧情報GivenA → 新情報NewA

という形をとります。

 

 ④は要注意です!これは「強調構文」ではありません。that節以降の構造を検証してもらえればお分かりになると思います。先頭に副詞要素M2がきてその後主節が続くのですが節としての副詞要素M2がさらに挿入されています。主節は第3文型SVOで完結されていますのでIt isの後ろにあるmy contentionが先行詞として入る余地はありません。このItは形式主語でthat節を受けmy contentionは補語になるのです。

 

 ⑤またまた「強調構文」Thusは省略されていますが前パラグラフをまとめます。接続詞andで二つのセンテンスを結んでいます。いずれの情報構造も

 

  旧情報GivenA → 新情報A

ですが、これらは

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 という展開であることに留意しましょう。

 

 

 

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CHAPTER3 受動態・There is構文・「強調構文」  SECTION3-2

主題と情報構造から見たThere is 構文の役割

 Thereは具体的な内容を持たない主語で主題であります。それは付加疑問をつけたときにThere is ....isn't there?となることからわかりますね。

では、主題が無内容ということはどういうことでしょう?

それは

 「以下の話は前提がありません

というわけです。

 受動態でby...がある場合やMVS,  CVS の語順と比べるとThere is構文だけが旧情報を持たず純粋に新情報のみを伝えるのです。

 

  1. 一切の旧情報を前提とせず新情報を導入
  2. howeverやButを伴う場合それまでの内容を否定し新しい内容へと方向転換する
  3. 接続語句を伴わない場合、実例を上げるか、その意見の裏付けとなる事実を提示する

それでは、上記の例文を取り上げてみます。

 

There are two meanings to repetiton in history. The first is when people  evoke events or people of the past when doing something new.The second type of repetition is when the past, despite being rejected and forgotten, is nevertheless repeated.

(意訳)歴史の反復には二つの意味がある。ひとつは人々が何か新しいことをなそうとするとき過去の出来事や過去の人々を援用するときに訪れる。ふたつめの反復形式が起こるのは過去に拒絶され忘却されたにもかかわらず反復されるものだ。

 

 

Hegel exercised an ex post facto proof(rationalization) stating that, since Christianity developed historically, Christ was God. In cotrast, Kierkegaard stressed that it was important to "contemporaneously" confront Christ as God, appearing in "lowliness."  What is important to note here,however, is that there is no ground that we can appeal to in order to acknowledge Christ as God; to acknowledge this requires a "leap" or "a "leap in the dark."

(意訳)ヘーゲルは事後的証明(合理化)をして言った。キリスト教は 歴史的に発展したのだからキリストは神なのだと。これに対してキルケゴールが強調したのは卑俗な姿で現れている神としてのキリストに”同時代”で向き合うことの重要性だ。しかしここで書いておかねばならないのは、キリストを神として認識するために使える根拠はないということである。これを認めるには”飛躍” ”暗闇の跳躍”が要請されるのだ。

 

Saussure was aware that in the comparison or translation of two languages, the translator, even if bilingual, necessalily places himself or herself within one or the other of these language at a time. There is no universal, neutral position in between languages.

(意訳)ソシュールは二つの言語の比較あるいは翻訳において、たとえバイリンガルであろうと翻訳者は必然的にいったんそれらの言語のうちのいずれかに自身を置かねばならないということに気づいていた。 言語間には普遍的、中立的立場はないのだ。

 

 

 いかがでしたでしょうか? この3点を意識して読めばたとえ高度な文章でも内容把握に役立つものと思われます。‟歴史と反復” ‟キルケゴールのキリスト観”、‟言語における基礎の不在”その参考文献をあげておきます。

 

 

 

ルイ・ボナパルトのブリュメール18日―初版 (平凡社ライブラリー)

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キリスト教の修練

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言葉とは何か (ちくま学芸文庫)

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CHAPTER3 受動態・There is構文・「強調構文」  SECTION3-1

 これまでは、主語S以外のものが節の先頭に置かれると、その節に託した書き手のメッセージが大きく変わることを説明しました。

 CHAPTER3では、受動態・There is構文・「強調構文」の文法は中学・高校で学んできたのですがその存在理由、情報構造における役割ははっきり学んできませんでした。たとえば、能動態を受動態に書き換えるパターンは教わりましたがそれは同一性を前提としています。だが情報構造は大きく違うのです。

 このCHAPTERでは

  1. 主題と情報構造からみた受動態の役割
  2. 主題と情報構造からみたThere is 構文の役割
  3. 主題と情報構造からみた「強調構文」の役割

を取り上げます。

 

主題と情報構造からみた受動態の役割

主題選択から見た意義

 受動態の意義はS V OのOを主語の位置において、動詞をV-edの形に変えたものですが、もともとの目的語が節の先頭に来るということは構造上の語順OSVと主題は同じです。しかし、受動態の場合、構造はO S Vでなく、S V なのです。主題としての主語Sはノーマル、書かれていること以上の意味はない、そして受動態も同じで無色なわけです。O S Vの主題は強いコントラストや前景化の意味が加わるのに対し、受動態は本来の目的語を節の先頭に配置しながらも、そこにコントラストや前景化が生じないようにする技法なのです

 そしてもともとの主語は必要な場合に限り末尾にby....という形で示されます。ついていない場合の方が多いです。

 

情報構造からみた意義

末尾にby以下があればその部分が極めて情報価値が高いのです。byを置く受動態が自然であるかどうかは影響力の有無にかかります。

  ex) I was approached by the stranger.

             これは自然な使い方でしょう。「見知らぬものが近づいてきた」というのは「私」を身構えさせますよね。そしてこのthe  strangerは何者かが以後展開されていくでしょう。

 

 ex) I was approached by the train.

        ここに何らなぞはありません。主語であるI に与える影響力はなし。受動態を用いるのは不自然です。

 

では高度な例文を取り上げます。

 ① A number of theoretical questions have been raised by the effort to think the relationship between feminism, psychoanalysis, and race studies. ②For the most part, psychoanalysis has been used by feminist theorists to  theorize sextual difference as a distinct and fundamental set of linguistic and cultual relations. ③The philosopher Luce Irigaray has claimed that the question of sextual difference is the question for our time. ④This privileging of sextual difference implies not only that sextual difference should be understood as more fundamental than other forms of difference, but that other forms of difference might be derived from sextual difference.   

(意訳)①数多くの理論的問題が上がってくるのは、フェミニズム、心理学そして人種についての研究との関係を思考しようとすることによってである。②たいてい、心理学を用いるいるのはフェミニスト理論家で性別を本質的で根本的属性として理論づけている。③哲学者リュス・イリガライがいうには、性別問題がわれわれの問題だということだ。④この性別の特権が意味するのはたんに性別が他の差異形態以上に根幹であるということだけでなく、他の差異形態が性別から派生しているかもしれないということだ。

 

 情報構造を追ってみましょう。①は受動態でSVが価値の低い情報(前景化を生じないようにするもの)、by 以下が高い価値を持つ。②もbyを持つ受動態で文頭に副詞句が入っているがSVは①の末尾にあるpsychoanalysisを受けているから旧情報、そして情報価値の高いのはby以下の新情報にあります。③は報告構造と呼ばれるものでSは報告者で動詞Vにはここでは詳細しませんが著者の評価が含まれます。そして目的語に相当する名詞節が新情報となります。主題の哲学者リュス・イリガライは②の術題feminist theoristsの具体的人物例にすぎないわけですから。④もThisがあることから③の名詞節の内容を受けているのがわかります。いろんな区別の中で性別が最も重要だということを受けています。not only ....but(also)....の呼応関係はbut以下に力点が置かれることはお判りでしょう。④のふたつめの名詞節内の受動態にはbyがありません。もともとはSVOの語順における目的語であったother forms of differenceを文頭に持ってくることで主題でありながらも前景化とコントラスト化を阻止するのです。

 

 ①~④のセンテンスの流れが

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のように進んでいるのがわかりますね。

 

 

 

フェミニズム問題は門外漢ですので取り上げた例文の文献を上げておきます。

 

Bodies That Matter: On the Discursive Limits of Sex (Routledge Classics)

Bodies That Matter: On the Discursive Limits of Sex (Routledge Classics)

 

 

CHAPTER2 主語S以外のものが主題になる場合  SECTION2-3

  •  M2 V S の語順
  •  C V S の語順

 

a) M2  V S の語順

副詞要素M2の後にS Vとくるのは前にも話しました。

 

 

今日は先に動詞Vが来て主語Sが続く場合を取り上げ、それがどのような情報構造上の違いをもたらすのか考えたいと思うのです。

①At stake, then, is how this "contingency" is theorized, a difficult matter in any case for a theory that would account for "contingency" will doubtless also always be formulated through and against that contingency. ②Indeed, can there be a theory of "contingency" that is not compelled to refuse or cover over that which it seeks to explain? 

(意訳)

① そこで重大なのは、この‟偶然性”がいかに理論化されるかということだ。‟偶然性”を説明する理論にとって難題はいかなる場合も、まちがいなくそしていつもその偶然を通過そして対抗して公式化される。②たしかに、それが説明しようとする事柄を拒絶したり隠蔽することを強要されない‟偶然性”についての理論などありえるのだろうか?あるわけがない。

 

①のように副詞要素M2が先頭にあって後ろにVが続く場合の動詞は存在・発生の意味の自動詞かまたは存在・発生の意味になる受動態(自動詞に相当するもの)のどちらかになります。 isは存在を示す自動詞で、他動詞の受動態で存在・発生の意味になるのは be foundやbe presentedやbe set などがあります。動詞の特徴は意味が希薄ということに尽きます。それ故、意味の豊かなM2とSの間にあって、天秤の支点のように両者の釣り合いをとっているのでOSVの主題ほど目立つことはありません。

    

     存在・発生を示す自動詞およびそれに相当する受動態

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  M2 V  Sの語順の情報構造

 先頭にある副詞要素M2は旧情報GivenAであり、、主語Sの方が新情報Aとなります。①は、これより前のセンテンスの流れがあってAt  stake「重要なのは」はそれを受けています。ここでは紙面上詳しく解説は致しませんが前のセンテンスとこうです。

In this sense, the failure of any ideological formation to establish itself as necessary is part of its democratic premise, the ungrounded "ground" of the political signifier as a site of rearticulation.

このパターンは旧情報を前提として新情報を導入する役割を担っています。

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  ①での新情報に相当するSは疑問詞で始まる名詞節how this "contingency" is theorized「いかにしてこの”偶然性”が理論化されるのか」でありますが、この疑問詞howも新たな展開を導くための目印であることがわかりますよね。

 

 ところで、この後のコンマですが文法構造上は等位接続詞なしでセンテンスとセンテンスをつないでいます。なぜならそれらは依存することなく構造上成立しているからです。コンマの前は

   At stake, then, is [how this "contingency" is theorized]

            M2          M2   V   S

 名詞節は形容詞節や副詞節と違ってそれ自体で、センテンス全体のなかのS、OあるいはCの機能を持ちますからね。語順の変わった第2文型SVCです。その後も、センテンスとして成立しています。

a difficult matter in any case for a theory (that would account for "contingency") will

  S                     M1                 M1           S'             V'                 M2'

doubtless also always be formulated through and against that contingency. 

              V                                                               M2

  a difficult matterはS、in any caseとfor a theoryは主語Sにかかる形容詞句、( )ないはa theoryを先行詞とする形容詞節(関係代名詞節)でその内部は上に記したように第1文型SVと副詞句がある。動詞群は副詞も含んでいるが助動詞willと受動態で成っている。その後ろは副詞句で動詞群Vにかかっているわけです。

 このようにコンマが接続詞の役目をはたしているので構造を捉えるのは難しかったと思います。

 

 

b)  C V S の語順

これも情報構造上は、M2 V Sの語順と同じです。

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それでは例文をみてみましょう。

Doubtlessly crucial is the  ability to wield the signs of subordinated idenity in a public domain that constitutes its own homophobic and racist hegemonies through the erasure or domestication of culturally and politically constituted identities.

(意訳)まちがいなく重要なのはある公の領域に所属した同一性の記号を武器として扱う能力だが、それは 文化的そして政治的に構築した実体が排除または支配することでそれ自体の同性愛嫌悪と人種的ヘゲモニーを構築する。 

 ジュディス・バトラージェンダー論[BODIES THAT MATTER] から取り上げたものですが、これは前後関係も捉えない限り理解は難しいでしょうね。私の理解は「男」「女」という本来記号にすぎない名詞を、文化・政治がそれを実体化しマイノリティを排除するということです。こういう議論を教室などで行えば授業は活性化すると思われるのですが。

 

 ところで初めの記事にも書きましたが情報構造を把握するのに大切なのは文と文ではなく節と節の関係だといいました。

 

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 だからこの文も形容詞節(関係代名詞節)だからといってthat以下を丸ごと先行詞にかけてしまえばまず理解不可能になるでしょう。関係代名詞は接続詞+代名詞なのです。論理展開は

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 ということをお忘れなく。ただしここではノーマル度が低いゆえに末尾がSになっていますが。最後に3つの旧情報のうち頻度の少ないGivenC(状況内で与えられているもの)の例文だけ挙げて終わりにします。

 So angry was he that he could barely control himself.

 Such was his anger that he could barely control himself.

 

SECTION 2-2 補足

 目的語Oが主題になるレアな構造をもう一つ発見いたしましたので、前回の記事と合わせて読んでもらえれば幸いです。

 

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 第3文型でありながら、O S V の語順をとります(もちろんOとSの間に関係代名詞が省略されているわけではありません)。用法は

a)強いコントラスト

b)強い前景化

 の2パターンありましたね。ここでは、強い前景化として使われているテクストを取り上げます。

 ①It seems likely  that  our biggest source of language enrichment in the future will be the "systems behavior" area. ②This is because an understanding of dynamic and interactive systems means a whole new way of looking at process rather than just at things. ③For this purpose we should begin to build an adequent vocabulary. ④When we have built this vocabulary and  assimilated the related concepts our understanding of the world around will be much improved. ⑤This I see as the next decisive step in our cultual development. 

(意訳)

①将来の豊富な言語の最も大きな源泉は”システム行動”の領域であろう。②というのは動的で相互作用する体系を理解するということは単に事態ではなく過程をみるという全く新しい方法だからだ。③このためにわれわれは充分な言語を構築しなければならない。④この言語を構築しそれに関する概念を消化したなら世界中の理解は大いに改善されるであろう。⑤これを私はわれらの文化的発展における決定的段階とみる。 

 情報構造を捉えるには法表現というのは大きな比重を占めます。これに関しては後のSECTION6で詳述しますが、①で出てきた語について簡単に触れます。このItは形式主語ですがItという語は客観性を含む。ただしItを受けるthatの前のseemsとlilkelyはこの客観性の度合いを弱めている。だからさらなる論証が展開されることを期待しよう。 It is possible , It is conceivableなどはより弱い客観性なのでこれもまた裏付け、展開は必要です。

 

 ①の主題はItから助動詞willの手前まで「将来、豊饒な言語の源泉」で題術が「システム行動」(the" systems behavior" area)   です。②の代名詞This は①全文をを受けていて接続詞because以下はその理由を表しています。③の冒頭の副詞句For this purposeは目的を表しますが、これが先頭に来ることで話が一歩前進し、ローカルな文脈に入っていくというイメージを持ってほしいです。他にも、理由・手段・譲歩などの副詞句が来ても同様です。

 

 副詞要素M2が主題の位置に来ることについては前にも書きました。確認のほどをお願いします。

 

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  ローカルな題術はwe should begin 以下です。④の副詞要素であるwhen節は主題であるが全文③の題術をそのまま受けています。our understanding of the world around 以下が主節となって新情報(題術)を導くのです。④には節と節の間にコンマがありません。そういう場合は相互に相関性・影響力が強いとみるのが一般的です

 

いよいよ今回のテーマ目的語Oが主題の位置に来るレアなパターンである⑤です。代名詞Thisは前文④の題術(=新情報)の位置にある主節を指している。つまり「私たちの世界観が大いに改善される」という意味を指しています。

 

 まずこのThisを目的語と捉えられるかどうかは構造分析の力次第ですね。Thisを主語SとみなしてI seeとの間に関係代名詞が省略されていると考えてしまうと主節となる動詞Vが見当たらない。この目的語Thisは強い前景化なのです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CHAPTER2 主語S以外のものが主題になる場合  SECTION2-2

主語S以外の主題ー 目的語O

 目的語が主題語の位置に来るのは極めてレアであります。M2が主題に来る以上にめだちますから強烈な色彩を放つといえるでしょうね。このインパクトは2通りあります。

  1.  強いコントラストを示す
  2.  強い前景化をもたらす

  まず、強いコントラストを表す例文を取り上げます。

①Formalism early twentieth- century saw, but fascism 1930s saw also.②It was within these ominous conditions that Husserl began to question the status of form. ③He was situated between the Stalinists, who hoped to rationally construct society itself through the party, and fascists who, against Stalinists, were disposed to unleash their irrational passion. ④Husserl chose neither.  

(意訳)

 ①フォルマリズムが20世紀の初頭に現れたが、またファシズムも1930年台に台頭した。②こうした険悪の状況の中でフッサールは形式の地位を問い始めたのであった。③彼が置かれていたのはスターリン主義者とファシストの間、つまり党を通して社会そのものを合理的に構築したがる者たちとスターリン主義者に対抗して自分たちの非合理な熱狂を解放しようとする者たちの間であったのだ。④しかしフッサールは、いずれも選ばなかった。

太字が目的語Oです。いずれも他動詞sawの目的語でこのように2つの節が連続して

O S Vの語順になっている時は強いコントラストをもたらします。副詞要素M2が先頭にある節が連続する以上に強烈なのです。この意外性が 目的語Oに強いメッセージを与えるわけです。

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おさらいとして以下の文も解説しましょう。②はこの2つの目的語を強調構文においてさらに強調するわけですね。③は主語Sが主題になっていて②の末尾がこれを受けているわけではないので②と③は言いかえ関係であることは分かります。

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それでは次に強い前景化をもたらすものの例文をみましょう。

 ①What Murakami wants to say with this pinball metaphor is not just that history is events created from structure( a system of rules ) but also that history no longer exixts. ②The union of "1973" and "pinball" only emphasizes repetition as replay in this way: ③"It was another rerun of the same old day. ④One you almost had to dog-ear to keep from getting it mixed up with the rest." 

(意訳)

 ①村上がこのピンボールの喩えを使っていいたかったのは歴史は構造(ある規則体系)からつくられるということだけでなく、それはもはや存在していないということだ。②‟1973”と‟ピンボール”の組み合わせはたんにこのようにリプレイとしての反復を強調しているにすぎない。③‟同じ一日の同じ繰り返しだった。④とりわけこの一日は別の日と間違えてしまわないように折り返しをつけておかねばならない。” 

④の目的語であるOneは③の文末にあるthe same old dayを受けているから旧情報Given Aとして文頭に来ているというだけでは説明したことになりません。この文をノーマルな形にすると

 You almost had to dog-ear to keep one from getting it mixed up with the rest.

このようにoneをkeepの目的語として本来の位置に収めればメッセージは単純になります。「同じような一日だから間違えないように折り返しをつけなければいけない」というだけ。

ところが

 One you almost had to dog-ear to keep from getting it mixed up with the rest.

となると前景化と呼ばれ、ほかにもいろいろなものがある中で、それらを背景に退けある要素だけを際だたせるために前景化する、ということなのです。the same old dayのありふれた度合いをさらに強めているわけです。前景化をあえて訳すると「中でも、特に、とりわけ・・については」がいいでしょう。

 

 

まとめ

主題の位置に目的語Oがあり、O S Vの語順の節がふたつ、ないしそれ以上連続している場合はその複数の節が強いコントラストをなしているということを読み取ろう。なお、この語順は、すでに学んだM2 S Vの語順に似た役割を果たしていることを頭に置いておこう。

 

目的語Oが節の先頭にせり出している時の二つ目の役割として、名詞要素を前景化するという役割がある。前景化を訳語で示すと「中でも・特に・とりわけ」となる。

        『英文読解のグラマティカ』富士哲也     

 

CHAPTER2 主語S以外のものが主題になる場合  SECTION2-1

  主語S以外の主語①- 副詞要素M2

この場合、M2 S V と M2 V S の2通りありますがここでは前者のM2 S Vについて書きます。個の語順の機能はふたつあります。

  (A)コントラストを示す

  (B)ローカルな文脈を設定する

 

A)の例文から見てみよう!

For Engels, socialism is, first and foremost, the control of nature, or the anarchic drive of a society.  ②It should not be surprising that Lenin's idea of turning society into "a gigantic factory" derived from this understanding. ③Marx, however, proceeds along a completely different line.④ In Capital  Marx stresses the importance of manufacturing   rather than that of the factory or machine.⑤ As Lewis Mumford noted, the notion of the factory and factory organization came from the army or temple, and thus its organizational system is that of the tree. 

(意訳)

エンゲルスにとって社会主義はとりわけ自然、社会の無秩序な運動の制御であった。②社会を巨大工場に帰るというレーニンの考えがこの理解から来たのは驚くほどの事ではない。③しかし、マルクスは全く違った方向に進んだ。④『資本論』でマルクスが強調したのは工場や機械の重要性よりもマニーファクチャーの重要性だ。⑤ルイス・マンフォードがいったように、工場と工場組織の考えは軍隊または寺院から由来したのでありこうしてこの組織体系はツリーである。

①と④の副詞要素M2 に注目してください。For EngelsとIn Capital は時を同じく生きたふたりの社会主義者の対比を示していますよね。エンゲルス社会主義=工場組織と考えたのに対しマルクスはそれをアナーキ的に考えていることが読み取れるでしょう。

 

 M2 S V のパターンを連続させればそれがコントラストをなしているのは明白です。しかし、コントラストは連続したふたつの節で表現されるとは限りません。この例文のように複数のセンテンスあるいはパラグラフにまたがって形成されることもあります。従って、時、場所、条件の副詞要素M2

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B)のローカルな文脈の設定とは

Since it was discovered that a non-Euclidean geometry could be established by introducing the postulate "parallel lines intersect," faith in mathematical architectonicity has been fundamentally shaken. ②The flaw in Euclid's work lies in his reliance on perception, or natural language, and in his inference of the straight line and point. ③On the other hand, non- Euclidean geometry made it clear that mathematics could exist independent from reality or perception; in one sense, this constituted a move toward a more rigorous formalization of mathematics.

(意訳)

①非ユークリッド幾何学は「平行線は交わる」という定理を導入することで設立されたものであるから、数学の構築性への信仰は根幹から揺らいでいる。②ユークリッド公理の流れは知覚、自然言語そして直線と点の推論にある。③他方で非ユークリッド幾何学が明らかにしたのは数学は現実や知覚とは独立して存在しているということだ。ある意味、これは数学のより厳密な形式化への方向性を構築しているのだ。

     

 副詞要素M2が主題になるもう一つの機能はそれが旧情報であるから先に触れておきたいという望みを満たすことにあります。前にも言いましたように旧情報は古い情報とは限りません。もう一度その表を出しておきます。

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①の副詞節「非ユークリッド幾何学は『平行線は交わる』を基礎に置いている」ということを旧情報にしているということですが、これはGivenBでこの著者の読者なら多くの人が知っている情報価値の低いものということになります。読み進めれば、相当高度な内容が展開されることでしょう。

 

③のOn the other handは①の相手となるコントラストを示しているのではなく、対比ではありますが②とをつなぐ連結副詞句とみられます。①の副詞節と③の副詞句では対称的ではありませんからね。

 

副詞節M2が末尾に来るのはどういうことか?

 

  それはその節が示す内容を新情報として伝えたいわけですね。

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 もう一度、情報構造をおさらいしておきましょう。

 

①Plato banished poets from his state because they did not understand the products of their own making and as a result would damage language itself. ②Late eighteenth- century romanticism altered the relationship between philosophy and poetry. ③Romanticism gave a legitimacy to the cognitive drives of the body, to sense, emotion, passion, and so forth, all of which were favored over formal knowledge. 

(意訳)

プラトンが詩人たちを自分の国から追放したのは、彼らが自分たちの制作物を理解せず、その結果言語そのものを毀損してしまうからだ。②18世紀後半ロマン主義の熱狂は哲学と詩の関係を変えた。③ロマン主義は身体の認知作用つまり感覚、感情、熱情、等々を正当なものとした。それらすべては形式的な知よりも人気があった。

①のbecause節が新情報となることでそこから②以下を展開するのです。

しかし、②③と主語が文頭に来ているのですが、②の頭は逆接Butがあった方がいいと思いますね。①のbecause節と②の節の論理関係を捉えられるかどうかが内容理解の鍵となるでしょう。③の主節は文頭に主語Sがきていて②の末尾にも同じ意味の語句はないから③の主節は②のいいかえです。③の形容詞節は関係代名詞の名の通りすぐ後ろの先行詞をうけたall of whichが主題となっているから題術(were favored以降)は新たな展開なのです。